第2章 貴女に愛が届くまで
「今回の任務ですがー眠りのオルゴールと仮称されていますね」
アリシアも資料をめくり始める。まゆを寄せる神田を無視してアリシアは話し続ける。
「発見者は売れないライター。まぁ、これはどうでもいいとして問題は次です。」
「おい」
「夜中のある時間だけ街中の人が眠りについて記憶がないというのが今回のキーポイントになると思います」
「お前の見解なんて聞いてねぇよ、黙れ」
しびれを切らしたのか神田がこちらをにらんでくる。アリシアはひるむことなくにっこりと笑って神田に応酬する。
「おや、ジャパニーズは黙って話を聞くこともできないんですか? 流石の教養のなさです」
「テメェ……」
「続けますよー。しかもみなさんオルゴールの音が聞こえてくると意識がなくなるそうです。探索部隊の方もそうなったと検証済みです」
誰もが眠りについてしまう、というのがやっかいでそれ以上のことは資料には書いていない。あとはその街がオルゴール作りの有名な街で職人が多く住んでいると書かれているだけだ。それ以外にはあまり特記する事項がないのだろう。
「つまり、その鳴っているオルゴールがイノセンスの可能性ありと我々は判断したわけです」
「だから、オレたちはオルゴールのありかを見つけるだけだろうが」
めんどくさそうだが、うるさいとは言わず話に乗ってきた神田にアリシアは内心ほくそ笑みながらうなづく。
「今夜はある程度位置と範囲を絞りましょう。小さな街とはいえ、二人で探すには辛いですからね」
「ただオルゴール見つけるだけだろうが」
アリシアは肩をすくめて、あからさまにため息をつく。
「資料ちゃんと読みましたか? オルゴールが鳴っている時間ってのは皆が眠りにつくまでしかわかってないのですから、最初にしか鳴ってない可能性もあるわけです」
そして、とアリシアは続ける。
「みんなが起きる時間はほぼ一緒、二時間後です。仮にずっとオルゴールが鳴っていたとしても短い時間だと思いませんか?」
これ以上ない笑みを作りアリシアは神田を見た。神田は苦い顔をして舌打ちをする。
「で? お前はどこに目ぇつけてんだよ」