第1章 はじまり
シンと張りつめた空気が部屋を包む。だが、コムイが折れる様子はなかった。その様子に神田は舌打ちをする。
そして、立ち上がりドアを蹴破るようにして出ていった。
コムイは乾いた笑いをしながら、今度はアリシア方を向く。
「アリシア、キミはどうだい?」
アリシアは眉間にしわを寄せながら目線を下げる。
「どうだいってもう決定事項ですよね? なら従いますけど」
もごもごと言葉を言い、でも、とアリシアは言葉をつづける。
「生存率が高かったのは私のおかげだけじゃありません。アールが私とずっと一緒だったからですよ?」
うん、そうだねと言いながらコムイはうなづく。
「キミも彼ばかりじゃなく誰かと任務をこなすべきだよ」
「でも……」
アリシアの表情が不安そうになる。するとコムイの表情が厳しくなった。
「彼に甘える時期はもう終えるんだ。彼のためにも」
「……はい」
アリシアは力なくうなづいた。
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話が終わり、執務室から力なく退室したアリシアは近くの壁に寄り掛かる。
急に任務のことが不安なっていく。神田がペアだからではない。自分の実力のせいだ。次からの任務が急に不安に思えて仕方がない。自分はやっていけるのか、もう何年も前線で戦ってきたというのに手が震える。震える手を抱え込んでへたり込む。こんな時に思い浮かべるのはいつも一緒だった彼だった。
「……アール」
つぶやいたそれはむなしく廊下にひっそりと響いた。だが、誰の耳にも届かない。