第1章 はじまり
「いやー、ごめんね。ちょっとだけ寝ようと思ってたらずいぶん寝てたみたいだね」
平謝りするコムイに誠意は感じられない。むっとしている二人をなだめようと軽く謝罪を繰り返した。
「で? 要件ってなんだよ」
いくぶんか棘が増した言葉で神田が尋ねる。コムイは苦笑いしながら二人をじっと見た。
「それよりまずちょっとした話を聞いてほしいと思う」
二人の顔が一気にくもる。コムイの表情も真剣なものへと変わった。
「エクソシストの生存率の話だ。キミたちは年間何人の人間が死んでいるか知っているかい?」
コムイの言葉に神田は顔をしかめる。
「エクソシストで死ぬ奴なんか、顔も合わせないうちに死ぬ奴がほとんどだろうが」
「その通り、入団が浅いものが死ぬものが多い」
「でも、それは仕方ないことではないですか? 養成機関が私たちにはないですし」
教えようとも、形状も武器の種類もまるで違う。イノセンスの扱い方の感覚ぐらいしか教えることが出来ないのだ。つまり実践、戦場で学ぶしかないのだ。
「そうだね、だから元帥について仕事をこなすものが多い、そこが問題なんだ」
首をかしげる二人にコムイは熱心に説明していく。
「元帥たちは大きな仕事を追っている。つまりは敵も強いんだ。カバーに入るのも難しい時が多いんだよ」
神田はその言葉にハッと馬鹿にしたように笑う。
「つまりはそいつが弱いからだろ?」
コムイは目を鋭くして二人に語りかける。
「エクソシストは貴重な戦力だ。死なせるのは我々にとって重大な損失だ」
沈黙が部屋の空気を重くする。
「それで、私たちはなぜ呼ばれたんですか?」
にこりと笑ったコムイは体の前で腕を組んだ。
「ボクはこれから少し実験的なことをしようと思っている」
いぶかしそうにこちらを見ている二人に、コムイは笑顔で受け流す。
「入団歴の長いエクソシストと新しく入団したエクソシストでパートナーを組ませる」
「つまり、任務をペアにして遂行させるんですか?」
アリシアの問いにコムイは満足そうに笑んでうなずく。
「その通り、簡単な師弟関係だね」
「なるほど」
それならば確かにいい案かもしれない。危険度が低い任務に当たらせ、かつ経験が積める。自分は誰と組まされるんだろうかと考え始める。