第1章 はじまり
――エクソシスト全体なのかな?
そう考えると不安が大きくなる。何か良くないことが起ころうとしているのか。だが、それなら急用ではないというのはなんなんだろう。不安ばかりが先に立っていてはなにもできない。
アリシアは自らを奮い起こして室長室へと向かっていく。どちらにせよ話を聞いてみないとわからないからだ。
もやもや考えているうちに室長室のドアの前まで来てしまった。
開けるべきか、開けざるべきか悩むが、もう目の前なのだから覚悟を決めるべきだ。
――ええい、南無三!
ドアノブに向けて手を伸ばした。
すると同じように手が伸びてきた。驚いてそちらを見てアリシアの表情が一気に歪む。
漆黒で染めたような長い髪。すらりとして無駄のない長身。そして女性と見まごうほどの中性的な美貌。
その腰に納められている刀、六幻。
神田ユウだ。
「おい、どけチビ」
アリシアはこれ以上ないくらいのしかめっ面になる。
確かにアリシアは西洋人としてはすごく背が小さい。だが、出会った瞬間から暴言を吐く人間に敬意を払う必要はない。アリシアは口角を片方だけ上げて笑う。
「すみません、チビという名前は私ではないので退く理由が見つかりません」
「あぁ!?」
片眉を吊り上げた神田にアリシアは含みのある笑みで応酬する。
「おっやぁ? ジャパニーズは理解能力が乏しいと見えますね? すみません、ゆっくりわかりやすくご説明いたしましょうか?」
「てっめぇ……! 切られてぇのか?」
「あなたのなまくらの棒で私が切れると? 片腹痛いですね」
互いにイノセンスをつかむ。冷え切った雰囲気に殺気が混じり合う。
だが、その空気を壊したのはたった一枚のドアだった。
「何やってんだお前ら」
室長室のドアからリーバーが顔をのぞかせる。
二人は目をぎらつかせてリーバーを見た。
リーバーは二人の顔を見てなんとなく理由を察したらしかったが、それには触れなかった。というより毎度のことなのでなだめるのが面倒なのだろう。リーバーは頭をかいた。
「さっさと入れ、室長から大事な話がある。……二人一緒にな」
――一緒に!?
思わず神田を見つめてしまう。神田も同じようにこちらを向いて目が合い、二人同じタイミングで嫌そうに顔をそらした。