第1章 はじまり
悶絶しているアリシアにリナリーは首をかしげる。
「どうかした?」
「いえ、リナリーが可愛すぎて求婚したくなりました」
その言葉にリナリーは口元を隠して笑う。
「相変わらずおもしろいんだから」
「いえいえ、思ったことを言ったまでです。苦労はさせませんよ?」
役者のように大げさにかしずき、リナリーに向けて手を伸ばす。リナリーは軽く笑い手を取った。
「はい、喜んで」
言って二人して笑い出す。幼いころから一緒に居たせいか、こういう軽口を言い合うのが習慣になっている。
「リナリー!」
すると遠くからリナリーに手を振っている女性がいた。白い看護服を着ている。恐らく医療班だろう。リナリーは申し訳なさそうに表情を変える。
「ごめん、行かなくちゃ」
アリシアはほほ笑みながら首を振る。
「気にしないで。体に傷が残ると美人がもったいないですからね」
「またそんなこと言って」
「私は事実を言っているだけですから」
笑いあう二人に看護婦がまたリナリーの名を呼ぶ。苦笑してリナリーは看護婦に向かってすぐに行くと答えた。
「リナリー」
こちらを向いたリナリーにアリシアはほほ笑んだ。
「また、話しましょう」
また、という言葉にリナリーは嬉しそうに表情がほころんだ。ここではまた、という言葉がなかなか言いにくい。入団して一月で死んでいくものが多いからだ。二人とも入団して長いといっても自分たちは戦争をしているのだ。いつ何が起こるのかわからない。だが、あえてアリシアは彼女に言った。
「うん!」
意図を察した彼女は嬉しそうに頷いた。そして看護婦の元に小走りで去っていく。
「あ、リナリー!」
振り返ったリナリーにアリシアは気になっていた事を話してみた。
「コムイから何か重要なこと聞いてませんか?」
リナリーは少し考え込むように顔を上げた、何か思い立ったように目を開いた。
「怪我の治療が終わったら、室長室に来てほしいって言われてるわ」
アリシアはぐっと顔をしかめた後、にっこりと笑う。
「そうですか! ありがとうございます」
お互い手を振って違う方向に歩き出す。アリシアは先ほどのリナリーの言葉から推測し始めた。
自分にだけ要件があるのかと思っていたが違うようだ。リナリーにも何かしら要件があるような言い方をコムイはしている。