第3章 噂と真逆の彼
「……ありがとう、伊瀬」
「あっ、う、ううん! 喜んでもらえたなら良いの!」
なんだか、無性にドキドキと心臓が落ち着かなくて。
顔を上げていられなかった。
どうしちゃったんだろ……わたし。
「あぁ……でも、これを食べるのは少し罪悪感があるな」
「? どうして?」
「いや……その、猫の顔を口にするのは…ちょっと、な」
しげしげとクッキーを見つめながら、本当に困った表情で眉をしかめる葉月くん。
そんな可愛らしい彼の意外な一面に、私は込み上げてくる笑いを抑えられなかった。
「プッ……あははっ!」
「……? なんで、笑ってるんだ?」
「ふふっ! 何でもない!」
――噂では、冷たい雰囲気で近づきがたいと言われている葉月くん。
でも、やっぱり私は……葉月くんは優しいと思う。
猫の顔の形のクッキーというだけでこんなに本気で悩んでしまう姿や、何より嫌な顔ひとつせず私の手から受け取ってくれた。
「ん……でも、一枚だけ食べても良いか?」
「勿論だよ。それはもう、葉月くんの物なんだから」
「あぁ……じゃあ」