第3章 噂と真逆の彼
一瞬だけ躊躇する素振りを見せて、手にしたクッキーを口の中に放り込む。
クッキーの欠片を舌で転がすように、じっくりと味わっているのか。
葉月くんの口は暫しもごもごと動いていた。
「……ど、どうかな?」
「ん……不味くはない」
「そ、そっか……」
不味くはない。
つまりは、特段別に美味しくもない、と。
そりゃ……いい感想を期待していたわけじゃないけど。
でも……やっぱり落ち込むなぁ。
「ハァ……」
「ふっ……冗談だ。美味いよ」
「え?」
下にダウンする気持ちのまま俯いていた顔を上げる。
するといつかのように、目の前にある葉月くんの整った指先。
しかしあの時と違うのは、その先に挟んで差し出されたクッキー。
「嘘だと思うなら、お前も食べてみろ」
「あ……う、うん」
えっと……でも、これって。
いわゆるアレだよね?
カップルがやるような、彼の手から“あーん”っていう。
「………………」
「どうした? 食べたくないのか?」
「あ、いや、そうじゃないよ! 食べる! 食べるから!」