第1章 大切に水を与えて
ちょっとホースを地面に置いて、一番風通しの良い場所に置いてある鉢へと近づく。
遮光ネットで覆われた鉢は、私の大好きな羽蝶蘭が1株。
今年の花はもう終わってしまったけれど、また来年会えるように新球がしっかりと根付いてる。
今年咲いてくれた姿を思い浮かべて、思わず笑顔。
「来年もまた会おうね」
誰もいないのをいい事に、軽く遮光ネットにキス。
「良いもの見させてもらったのぉ」
「えっ!?」
心臓が、ばくんと鳴った。突然見知らぬ声。
慌てて周囲に目をやれば、すぐ隣、温室の開けてある窓の外に、ラケットを片手に下げた男の子が1人。
長身で、とても整った顔立ち。どこか楽しそうな表情で私を見つめていた。
かーっと顔が熱くなってくる。
「えと、そのど、どこから見て・・・・?」
恐る恐る尋ねてみる。
「鼻歌口ずさみながら水撒いてる辺りからかの」
ぽん、とラケットを肩に乗せながら答えてくれた。
ぎゃー!!
叫び声は声にはならなかったけれど体温が更に急上昇。ぱくぱく金魚みたいに口を閉じたり開けたり。
恥ずかしくなって、つい後ずさる。
「っと、待ちんしゃい」
その男の子から呼び止められたと思った瞬間。
見事に踏みつけたホースの先が暴れだしてその・・・ね?
思い切りその彼に・・・・水の洗礼が向いていた。