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テニスの王子様・仁王雅治 【大切に水を与えて】

第2章 真っ白な彼女と真っ黒な彼


「仁王君・・・彼女に何したんですか」
 いつでも走って逃げ出す少女を見やり、柳生は呆れたように言葉を紡いだ。

 最近仁王が追いかけている少女の名は、確か『坂本奏』と言ったか。特に目立った所はない極々普通の、けれどどこか和んでしまう空気を持った少女だった。

 くしゃっと髪に手を埋め、楽しそうに仁王が答える。
「まだ何もしとらんよ」
 耳元で好きだと言っただけじゃ。
 さらりと告げた仁王の言葉に、 
「貴方って人は全く」
 はぁっと、深く柳生は息を吐いた。

「今までの女ならこれでコロっといったんじゃが、坂本には見事に逃げられた」
「坂本さんは今まで仁王君がお付き合いしてきた方たちとは違いますよ。貴方だって分かるでしょう?」
「わかっとるよ。自分でも不思議なんじゃ。気が付いたら目で追ってる」
 
ひっそりと咲く、野の花のように。
坂本の存在は自然に仁王の中に入ってきた。
目を向けるようになってみれば、植物の世話を楽しそうにしている坂本も、友人とふざけあっている坂本も、何かあったのか泣きそうな坂本も、全部の表情・行動が愛しくて。
 
 しばらく仁王の表情を見つめて、クスと柳生が笑う。
「そんな表情の仁王雅治をはじめて見ましたよ」
「うっさいわ。青春を謳歌しとるんじゃ、うらやましいじゃろ」
 開き直って柳生に言い返して。
「俺を本気にさせたんじゃし、しっかり責任とってもらうぜよ・・・奏?」
 
 逃げ出した少女を思い浮かべて、幸せそうに仁王は呟いたのだった。
 
 
 坂本奏の受難はまだまだ始まったばかり。


おわり
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