第1章 大切に水を与えて
私、坂本奏の趣味は蘭の栽培。
みんなに言うと、「若いのにシブイね・・・」と言われてしまう。
父も母も花が大好きで、大きな花専用のハウスがあるくらいだ。
昔から花に囲まれて育ったし、父母の花を育てる姿を見たり手伝っていたら、必然的に私も花の栽培が大好きになっていた訳。
父は紫陽花、母は薔薇、私は蘭・・・と一つの品種に集中してしまう。
愛情をうんと注いで、短い期間だけれども1年の成果が出る。
それがとても嬉しい。
蘭の中でも羽蝶蘭が私は好き。小さいけれど、とても存在感のある華麗な姿を見せてくれる。小さいから私にも扱いやすいって理由もあるかもしれない。
そんな私だから、必然的に高校で入った部活は園芸部。
通っている立海大付属高校は運動部が有名な場所だから、園芸部はとってもマイナー。今年は新入生が誰も入らなくて、在籍部員は高2の私だけで・・・3年の先輩方が部活を終えてしまった今、とうとう同好会になってしまった。寂しいけれどしょうがない事なのかな。
「うーネガティブ思考止め止め! 花に影響しちゃう」
軽く頭を振って、温室の花や草木に水を与えていく。夏休み真っ最中なので、温室の窓も全開。やっぱり温室は暑い。
暑さから気を紛らわすよう鼻歌を口ずさみながら、大型の植木や花には豪快に先がシャワーになっているホースで水をかけていく。
そして1箇所で私は足を止める。