第12章 アビリティー
『うーん・・・ダメだ、登れないみたい』
運悪く、私達が流れ着いたのは三百六十度岩壁に囲まれた砂浜だった。あ、違うか。
辛うじて岩壁に三角に割れた・・・丁度早乙女学園長が通れるくらいの亀裂があって、多分そこから入ってきたんだと思う。
三角の縦長の亀裂の向こうにはキラキラと水面が見える。
「・・・ちっ。
ツいてねえな・・・ビーサンでも履いてりゃどうにかよじ登れたのに、御丁寧に流されやがって」
『えー。
でもほら、一緒に流れつけたからいいじゃん。もし1人だけだったら虚しくない?』
「・・・・・・入学当初に孤立してたクセによく言うぜ。
お前、パートナーなんて要らないって言ってただろ」
『あー、うんあれね・・・。
だってy「有名になりたくねえ、だろ」・・・セリフ取られた』
「他よりはみ出てる才能持ってんのに、有名にならない方がおかしいと思うけどな」
『!
・・・・・・はは、ズバッとくるね・・・』
はみ出た才能。
やっぱそう見えてるのか・・・。
ゴツゴツした岩壁を登れないか確かめ終えて、私達は人1人分のスペースを開けて座った。
「・・・ある意味、お前と那月は似てるからな」
『え』
「那月のヴィオラの腕は知ってるだろ。それに加えて作曲もよく出来る。
お前の場合は、作詞作曲と歌唱力だ。・・・楽器の腕は知らないけどな」
『あー・・・』
「そのクセして、那月はヴィオラを積極的に弾こうとしないしお前は有名になりたがらない」
気に食わない、とでも言うように砂月くんは断言した。
『うーん・・・・・・。
・・・砂月くんって、那月くんがヴィオラをあんまり弾かない理由とか知ってるの?』
「・・・・・・知ってたならなんだ」
『教えてくれないかなー、なんて・・・』
「なんで」
『せっかくヴィオラ上手なんだからさ、勿体ないなーって』
「・・・いいぜ」
『ですよねー・・・・・・って、え?』
「お前が、何をそんなに有名になりたがらないのかを言うならな」
海の方を見ていた砂月くんが私の方を見る。
・・・なるほど、等価交換って訳か。