第12章 アビリティー
『・・・幼馴染みが居たんだけど、私が早乙女学園に入学する少し前に居なくなっちゃったんだ。
唯一の味方だったんだけどねー、私の前から消えちゃった』
「・・・居なくなった?」
『死んではないと思う。てか思いたくないし。
・・・ある意味喧嘩別れ、って感じでさ・・・・・・早乙女学園にもね、本当だったらあいつと一緒に入学するハズだったんだ』
馬鹿みたいにヘラヘラ笑ってたあいつの顔を思い出す。
『・・・あいつが作曲家コースで、私がアイドルコース。
もしもパートナー制だったら、一緒にパートナーになろうって約束までしてさ。
・・・・・・でも、あいつは消えた』
「・・・本来ならお前はその幼馴染みとパートナーを組んでたはず・・・か」
『・・・・・・・・・うん。
だから・・・パートナーは出来るだけ組みたくなかった。あいつの代わりは、あいつしか居ないから。
・・・有名になりたくないのは、私1人だけじゃ意味が無いからだよ。どんなにいい曲を作っても・・・どんなにいい曲を歌っても、私1人だけで有名になったら意味が無いんだ』
「なんでそこまでして、幼馴染みに固執してる・・・?
その幼馴染みだって、お前の歌を周りに聞かせたいと思っているんじゃないのか?」
『そうだとしても、引きこもりだった私に・・・・・・あいつは音楽って世界を魅せてくれた。
だから、今度は私があいつに〝私の音楽〟を魅せてあげたいんだ。
・・・喧嘩別れの原因さ、砂月くんも言ってた私のはみ出てる才能なんだよねー』
今でも覚えてる。
灰色と黒のモノクロだった世界から、あいつは当たり前のように現れて私をグラデーション鮮やかな世界に連れ出してくれた。
『・・・歌姫・・・。そうネットで私が呼ばれてるみたいだけど、私はみんなが思ってる歌姫なんかじゃないんだ。
このはみ出てる才能のせいで、あいつを・・・苦しめてたんだからさ』
歌姫なんて、ガラじゃない。それは自分自身が一番よく解ってる。
・・・今でも、覚えてる。
最初で最後の喧嘩は、酷く苦しくて・・・泣きたくて・・・。
あいつが1番辛かったのに、気づいてあげられなかった自分の無力感を嘆いた。