第19章 △ Campus Life
しばらくそうして向き合って、真面目な顔をしていたニノ君が唐突にフッと笑う。
「そんなに震えないでくださいよ。」
私のサンドイッチを持つ手が小さく震えていた。
ニノ君はそっと頬から手を離す。
「ご、ごめん…」
「ね?これが答えです。」
「…え?」
ニノ君は私の方にさっきの手を差し出してきた。
私はニノ君の言葉もその手の意味もわからず首をかしげた。
「小雨が俺と付き合うって言ってくれた日から、俺も何度もこっち向かせようって頑張ってみましたけど、やっぱり俺じゃダメみたいです。」
ニノ君はそうやって寂しそうに笑顔を見せると、差し出していた手で今度は私の胸元を指差した。
「それ、俺にください。」
私はすぐにそれがネックレスだと気付いて、チャームに触れる。
今まで何度もニノ君を思い出したネックレス。
いや、ニノ君で隠してきたネックレス、なんだ。
「それつけてると、俺のこと思い出しちゃうでしょ?」
「ニノ君…、」
ニノ君はなかなか外そうとしない私を見かねて、私の方に近寄り、首の後ろに手を回した。
自分でネックレスを奪ってしまうらしい。
でも私は抵抗しなかった。
そうしてほしい気持ちがあったから。
「もう自分で選べますよね?」
ニノ君は私から外してしまったその思い出のネックレスを私に見せながら、問いかけた。
このネックレスを選んだ時は、悩みに悩んでニノ君が一瞬で決めた方にしたんだ。
今の関係も、悩みに悩んで、ニノ君の提案を受ける形で決めた。
何一つ、自分で決めてなんかいなかった。
「うん…自分で、決める。」
私は今度こそ、自分の気持ちに向き合える気がした。
「ありがとう、ニノ君。」
「どういたしまして。」
その後はお互い無言でパンを食べ、それが終わるとそれぞれの次の授業に向かった。
いつもみたいに「じゃあね」と言い合って。
ニノ君に背を向けて歩き出すと、急に突風が吹き抜けた。
並木道の木が一斉にざわざわと音を立てる。
その音に混ざって、小さくニノ君の声が聞こえた気がしたが、気のせいかどうか、私にはわからなかった。
「小雨ちゃんの幸せが俺の幸せです。」