第19章 △ Campus Life
放課後、私はすぐにあの湖へ向かった。
畔のベンチには見慣れた背中。
「翔君、お待たせ。」
「ん、あぁ…。」
私は翔君の隣に座った。
風が吹くと湖面が静かに凪いだ。
そしてそれが収まると同時に、翔君が話し出す。
「あの、さ…。昨日言われたこと、考えてたんだ。」
「うん…。」
「小雨のことは本当にずっと幼馴染だと思ってたけど、小雨に彼氏ができるとすげぇ嫌だって思ったし、なんつーか、子供がおもちゃ取られたみたいな気持ちに近いっつーか。
でもそれって小雨のことモノ扱いしてるみたいでそれも嫌で。
昨日、小雨も似たような感覚で悩んでたんだって知って、俺気付いたんだ。」
そこで翔君は私の方を見た。
私も視線を合わせる。
吸い込まれそうなくらいの純粋な瞳。
「この関係が崩れるのが怖くて目を背けてただけなんだって。
だからお前にはもうニノって存在がいるのを分かってるけどちゃんと伝えとく。」
翔君はそこで一旦区切って深呼吸をした。
その一呼吸が永遠に感じられるくらい長く感じて、私もすごくドキドキしていた。
「俺は小雨が好きだ。」
言われた瞬間、私は長い長い呪縛から解き放たれたみたいにスッキリした気分になった。
何かがしっくり来て、私の中で落ち着いていく。
「うん、あの、まぁ…俺がビビッてるうちに取られちゃったからもう遅いのは分かってんだけどさ…」
「遅くないよ。」
「え?」
私は頭の中で翔君の言葉を反芻して、じわじわとそれを実感していく。
ずっとずっと胸が痛んで苦しかったのが取れて、私はいつの間にか涙が溢れていた。
翔君が歪んでよく見えない。
「遅く、ないの。
ニノ君のことは確かに気になったりもしたけど、付き合ったのはニノ君が私の気持ちをハッキリさせるために提案してくれたのを受け入れただけ。
名前も呼べなかったし、手を繋ぐ以上のことはできなかった。
いつも頭に翔君が浮かんで…できなかったの。」
「小雨…」
翔君は泣きながら一生懸命話す私の肩に手を乗せた。
優しく名前を呼ばれて、私はそれだけで安心できる。
翔君は空いている手の甲で私の涙を拭い、静かに距離を縮めてきた。
私はそうすることが自然であるかのように、目を閉じた。
一瞬置いて、唇に柔らかい感触。