第10章 Past
「彼女は俺と同じ高校の出身で、俺が入学した時に彼女が3年で、一目惚れしたって言うんです、俺に。
でも自信がなくて告白できないまま大学生になって、もう1年も経ってしまったし、諦めようかどうしようかっていう時にミスキャンパスのエントリーの話が出たそうなんです。
で、それで優勝したら自信になるから、俺に告白しに行こうって決めたって。」
私は黙ってニノ君の話に耳を傾ける。
ニノ君がいじる砂利の擦れ合う音が、やけに大きく聞こえる。
「俺、ビックリしちゃって。
その場ではすぐに返事を出せなかったんです。
で、半年くらい友達でいて。
それから付き合い始めました。
だから彼女とはまだ付き合ってそんなに長くないんです。」
ニノ君は池のそばの柵にこちらを向いて寄りかかっていた。
私も立ち上がって隣まで歩いていき、同じように寄りかかってみる。
今はニノ君の気持ちを少しでも分かりたい。
同じ動作をしたからって分かるわけもないけれど、やらないよりはマシな気がした。
「最初の頃は純粋に恋愛を楽しんでました。
美人だし、年上だけど甘えたで可愛いとこもあるし…でも俺、気付いちゃったんです。
気付いちゃった、というか、気付かないフリをしていた…が正しいですかね。」
再び柵の足元の砂利を足で遊び始めたニノ君は、やっと私と目線を合わせる。
でも、飛び出てきたのは私にとって衝撃の言葉。
「彼女は俺が好きなんじゃない…俺の金が好きなんです。」
「そんな…!」
ここまで黙って聞いていた私も、思わず声が出てしまった。
ニノ君は私が何か言う前に自分の口元に人差し指を立て、沈黙を促してきた。
私はそのジェスチャーに従い、とりあえず口を閉ざす。
「なんかおかしいとは思ってたんです。
アレが欲しいとかコレが欲しいとか、会話の中心はほとんど彼女の欲しいもの。
記念日なんて口実を付けては毎月のようにお祝いをする日がありました。
俺は心底彼女のことが好きでしたから、喜ばせたい一心で『欲しい』と言っていた物をあげ続けていました。
今思えば、バカみたいですね。」
ニノ君は乾いた笑い声を漏らす。
私はもうそんなニノ君が見ていられなくて、身体を反転させて池の方を見つめた。