第10章 Past
「お帰り~!って…お前ら花火はどうしたんだよ?」
「売り切れてました。というわけで、解散です。」
「あっさりだな~!」
翔君の元に戻ったニノ君は何食わぬ顔で嘘をつく。
荷物をまとめ始めたニノ君に続いて、翔君も笑いながら片づけを始める。
私はいつもどおりにするのが大変で、沈んだ気持ちを隠すためにずっと眠いフリを続けた。
それから1週間後。
私はニノ君に誘われて、学校帰りに3人でお花見に行った公園に来ていた。
今回は翔君はいない。
いつも私かニノ君のどちらかとは必ずと言っていいほど一緒にいるので、2人して嘘をついて翔君と別れてきた。
しばらく無言のままで歩き続けて、穴場スポットである池の畔にやってきた。
ニノ君が先にベンチに座った。
私も隣に腰を下ろす。
ポケットに手を突っ込んでしばらく空を仰いでいたニノ君は、前かがみになって池の方に視線を落とした。
「ココね、彼女が教えてくれた場所なんです。」
ふいに、ニノ君がポツリと呟く。
周りには誰もおらず、遠くでセミが鳴く声だけが小さく響いていた。
「誰も来なくて良い場所だよ…って。
彼女は純粋にこの場所が好きなんだと思ってました。
でも、そうじゃなかったんですね。」
ニノ君は前かがみのまま、膝についた手を握って力を込めた。
俯いていて表情が分からない。
「彼女がココばっかりデートに選んでいたのは、他の彼氏に『現場』を見られないためだったんです。
…彼女との出会い、秘密って言ってましたけど…もう教えちゃいます。」
ニノ君はそこで顔を上げて、私の方を向いた。
その表情は悲しいような、切ないような、そんな苦しい顔だった。
「1年前、俺がまだ高校生だった頃、ある日彼女が校門の前で俺を待ってたんです。
その時にはもうすでにミスキャンパスになってましたから、彼女の存在は知ってる人には知れてました。
俺もその内の1人です。」
ニノ君はゆっくりと立ち上がって、足元の砂利を弄びながら話し出した。