第10章 Past
「この前小雨ちゃんも見ちゃった『現場』。
あの男の人がきっと本命です。
俺はただの財布。
きっとたまたま二宮酒店の話を聞いて、俺に取り入ろうと決めたんでしょうね。」
ニノ君はそこまで一気に話すと長いため息を吐き、改めて私の方を向く。
ニノ君の雰囲気がさっきとは変わった気がして、私も向き合うようにニノ君と対した。
「今日、小雨ちゃんを誘ったのは、俺がけじめつけるところを見ててほしかったから。」
「けじめ…?」
「そ。もう少ししたらあの人、ここに来るから。そしたら俺、別れる。」
『あの人』というのは彼女さんのこと。
『けじめ』というのはつまり、きっぱりお別れするということ。
決心したニノ君の表情は硬い。
でもやっぱり、心の底から好きだった人だからなのか…手が震えているのが分かる…。
私はニノ君の両手を取って、自分の両手で包み込んだ。
「ニノ君なら、できるよ。」
「うん…本当は1人で行くつもりだったんだけど…やっぱ気持ち折れちゃいそうだったから…巻き込んじゃってごめん。」
「ううん。ニノ君は強い人ですっていう証人になれるもんね。」
ニノ君は「かなわねぇな」と呟いて苦笑すると、公園の時計を見た。
「そろそろ来るかな。見つからないとこにいて。」
「ん、わかった。」
私は握ったままの手を、最後にぎゅっと想いを込めて少し強く握ってから、その場を離れた。
ニノ君は私が離れたことを確認すると、改めて先ほどのベンチに座る。
と、そのタイミングで逆の方向から例の彼女が現れた。
私は息をするのも忘れて2人を見守った。
風に揺れる木々がささやく音が、やけに耳に残った。