第8章 Precious
「わっ!どうしたんですか!」
テントまで戻ると、肉を焼いてくれていたニノ君がビックリして出迎えた。
でもしっかりとバスタオルをすぐに出してくれる。
私はそれを受け取って身体を拭くと、テント内に入って寝転んだ。
「海で足攣って溺れかけたんだよね。」
「ありゃりゃ。だから体操しなくていいんですかーって言ったのに。」
2人は小声で話しているみたいだったけど、周りに人が少ないこの場所では丸聞こえ。
私はさっきの死の恐怖と翔君の言葉とに翻弄されて、気持ちは溺れている。
バスタオルを頭から被って目を閉じてみる。
グルグル頭の中でいろんな翔君が現れては消えていく。
「小雨、そろそろ着替えるぞ。」
いつの間にか眠ってしまったらしい私が翔君に起こされたのは、一面夕焼けのオレンジに染まった時間。
身体を起こしてみると、足の違和感はもう消えたみたいだった。
2,3度足を揺すってみて特に異常が感じられないことを確認すると、そのまま先に着替えさせてもらった。
全員着替えが済み、バーベキューセットも返却した頃には空に星が見え始めていた。
持ってきた花火に火をつけて、片っ端から火花を散らしていく。
ニノ君はわざと翔君に向かって火を点けたり、追いかけたりしてふざけていた。
ニノ君が本当に怪我させるはずないのに、翔君はビビりだから全部逃げて回る。
そんなやりとりが面白くて、私はずっとお腹を抱えて笑っていた。
「あ…もうこれで終わりだ…。」
私は花火を入れてきた袋を覗いて、打ち上げ花火が1個残っているだけなのを確認するとそれを取り出した。
「もう終わりか~。」
「買い足します?」
つまらなそうな翔君に対して、ニノ君はにやにや笑ってじゃんけんの構え。
これは、負けた人が近くのコンビニまで買いに行けというやつ…。
3人で目を合わせてニヤリと笑いあう。
「「「最初はグー!じゃんけんぽん!」」」
翔君はグー。
ニノ君はチョキ。
私もチョキ。
「うわぁ~!ニノ君とじゃんけんしたら負けるに決まってるよ~!」
「何言ってるんですか。こんなに暗いんだから女の子1人で買出し行かせるわけないでしょ。」