第1章 Memory
幼馴染の櫻井翔。
幼稚園から今の大学までずっと一緒の学校に通って、家もお隣さん。
同じような家がひしめく住宅街に建っているせいか、2階の私の部屋のベランダと翔君の部屋のベランダは、ほとんどくっついているような作りになっている。
私と翔君を隔てる物は、そのベランダの柵とガラス窓一枚だけ。
お互いの部屋を行ったり来たりするのは日常茶飯事で、私は翔君の部屋に宿題をやりに行ったり、翔君は私の部屋に漫画を読みに来たりしていた。
少女漫画しかないのに読みたがるのは、昔から変わらない可愛いところ。
2人の合図は窓を3回ノック。
姿が見える時間でも、カーテンが引かれている夜でも、3回ノックをすれば鍵を開けて中に入れる。
言わずと決まった2人の約束。
「部屋に入れて。」の合図なのだ。