第5章 Drunkard
「さ、着きました。ここです。」
ニノ君に付いて歩くこと数分。
公園の奥にある小さな池の畔に来た。
池の周りには、満開の桜。
池を取り囲むように咲き乱れ、花のピンクが池にも反射して、一面桃色の世界。
「わぁ…!」
「うぉっ、すげっ…!」
私と翔君は並んで桜を見上げ、感動に心を震わせた。
「んふふっ。すごいでしょ。この木陰にしましょうか。」
ニノ君は近くにあった桜の木の下を指差した。
日の光が直接当たらず、池を一望できる場所。
周りに花見客は1人もいない。
「ニノ君すごいね!どうやって見つけたの?」
「ん~、秘密です。」
「また秘密~?」
いつもニノ君は肝心なことを秘密にする。
実はお金持ちのお坊ちゃんだし、ミスキャンパスと付き合ってるし、こんな穴場も知ってるし、本当にミステリアス。
私が頬を膨らませていると、着々と準備を進めていた翔君がニノ君の持ってきたクーラーボックスを開けて大声を上げた。
「あ~っ!!これ全部、酒!!」
どうみてもお酒が入っている一升瓶に、ビール缶やチューハイ。
ニノ君はすっごく悪い笑顔で「共犯ですよ。」と呟いてビール缶を開けた。
そこからは「帰りの荷物を軽くしろ」というお坊ちゃまのお達しでお酒に少し手をつけることにしたのだが、これが間違いだった…。
「ニノ君はぁ~、金も女も知識も権力も美貌も持ってるから~、わたひの気持ちなんてちっともわからないんひゃ~!!」
「はいはい。」
「もうお前お酒持つなって。」
完全にへべれけになった私の話を聞き流しながら、チューハイを飲むニノ君。
私の方を見向きもしないで桜を眺めている。
翔君はというと、案外アルコール耐性があるみたいで素面のまま。
私の手に握りっぱなしの日本酒が入った紙コップを取り上げて、代わりにお茶が入った紙コップを無理やり持たせてくる。
「これお茶じゃん~!翔ちゃんのばかぁ~!意地悪ばっかりして~!!」
「翔ちゃんって…小学校の時のあだ名呼んでるし…どうしようもねぇな、コイツは…。」
「もうほっときなさいよ。」
ニノ君は諦めの態度でビール缶を翔君に開けてあげる。
翔君もため息をつきながらビール缶を受け取って、ニノ君と2人で乾杯。