第1章 彼と別れた
教室に戻ると、姫迫がクロハにベタベタとくっ付いていた。
あからさまに嫌そうだな、クロハは。
いつもの俺なら間に入るけれど、
もうそんな事はしない。
欠伸をしてその光景を見てるだけ。
クロハは俺を見て悲しげな顔をしている。
ごめん、クロハ。
もう俺は、君の彼女じゃないから。
放課後になり、俺はクロハに屋上に来るように言った。
今は屋上への階段を上っている最中。
思えば、告白されたのもこの時間で、屋上だった。
付き合うのも別れるのもこの場所か。
屋上の扉を開けると腕組みをしてフェンスに凭れ掛かるクロハの姿があった。
「話って、なんだ?」
何かを察したのか、クロハの声は不安げで。
クロハ、本当にごめん。
君との幸せより、自分の幸せを優先する。
「別れよう
静かな屋上に俺の声が静かに響く。
クロハは目を見開いて固まっている。
心なしか泣きそうな顔をしている。
なんでそんな顔するのさ。
いつもの涼しい顔で『あっそ』って言われるかと思ったのにさ。
なんか期待外れ。
俺はクロハに背を向けて帰ろうとした。
その時、
「待てよ!」
クロハの震える声が耳に入った。
なんでそんなに声が震えてんの?
「なぁ、なんでいきなり…俺の事が、嫌いになったのか!?」
嫌いになった…
そういう事にしておこうかな。
俺はにっこり笑って頷いた。
クロハの表情が一気に絶望の色へと染まっていく。
「嫌いになったんだ。クロハのこと…クロハのお陰で友達もいないし嫌がらせばかりされるし。だからさ、俺の幸せのために俺と別れてよ」
「そ、んな…」
幸せのために別れたいのは本当。
最低だって言われていいさ。
俺はヒラヒラと手を振って屋上を後にした。