第2章 「女の子」だけの特別。 【Type N】
レコーディングは和君にサポートしてもらって、なんとか今日のノルマを終えることができた。
まだ他のメンバーのレコーディングのために、スタッフはしばらくスタジオ内に留まっている。
それをいい事に、私はメイクさんに女の子状態に戻してもらって帰宅することにした。
こういう時は、何かとリラックスできる状態になるのが一番いい。
メイクも変えてもらい、いつもの姿に戻った私は堂々と帰宅できる。
まさか誰もさっきまで男の子だった気象小雨君だとは思うまい。
エレベーターに乗り込み、下の階へのボタンを押す。
閉める寸前に慌てて乗って来る人がいて、私も急いで「開」ボタンを押してその人を乗せた。
帽子でよく見えなかったが、この背丈、さっきの走り方。
「…和君?」
「え?その声、小雨ですか?」
最近はずっと男モードで顔を合わせていたためか、和君は全く気付いていなかったようだ。
服装までスカートだったし、当然か。
「えっと、なるべく楽な格好で帰りたいな~って思って。変えてもらった。」
「今は女の子、ですね。」
「そう、だね。」
なんだか急に和君を意識してしまい、顔が熱くなってきた私はエレベーターの階数表示を見上げた。
「お腹痛いの、治りました?」
「あー…っと、まだ、ちょっと。」
和君と目を合わせないようにひたすら階数表示を見つめている。
だから、和君が真後ろに立っていたことには全く気付かなかった。
「痛いの、忘れる方法教えましょうか?」
「え…?」
和君は私の肩を掴んで反転させると、そのまま壁に追い詰めるようにして両手で私の逃げ道を断った。
ビックリする私に、和君はどんどん顔を近づける。
「え、ちょっ…和君、まっ…」
和君の顔がもう目の前。
息が掛かるほどそばにある。
私は目を開けていられなくて思わずギュッと瞼を閉じた。
その瞬間、エレベーターが止まって扉が開く音がする。
「痛いの、飛んでいきましたかー?」
先に降りてしまった和君の声がして、私は腑抜けたような顔で立ち尽くす。
次にドアが閉まるアナウンスが聞こえ、私も慌ててエレベーターを降りた。
そして、急に先ほどのことを鮮明に思い出す。
「もぉ~っ!和君ってばからかって!!」