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続きのシンデレラ

第2章 「女の子」だけの特別。 【Type N】


「もう、大丈夫みたい。ありがとう。」
「いえいえ。またどうしようもなくなったら、呼んで。」



和君はそれだけ言うと立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込んでどこかへ行ってしまった。



「言ってって…どこ行くんだか…。」



和君がいなくなってからすぐにスタッフが呼びに来て、私のレコーディングが始まった。
レコーディング中はほとんど立ちっぱなし。
歌に集中している間は痛みは忘れてしまうが、ふと気を抜くとじわじわと下腹部が悲鳴を上げ始める。



(うぅ…また痛くなり始めた…スタッフさんの指示、頭に入ってこない…。)



腰に手を当てて、考え込むような体勢で自然と前かがみにしてみる。
真剣に譜面をみているようで、頭の中は「痛い」の2文字。
ブース内のスピーカーを通じて、外にいるスタッフからの指示が聞こえてくる。
鉛筆を持ってメモを取るフリをするが、実際は何も書かずに鉛筆を持つ手に力を込めている。
顔を変えられないので、鉛筆を握ることで痛みを少しでも発散させているのだ。



『またどうしようもなくなったら、呼んで。』



ふと、和君の優しい表情と言葉が蘇る。



(和君…)



口には出さずに呼んでみた。
思うだけでは伝わらない、か。



自分で自分のやっていることがおかしくなって、自嘲気味にこっそり笑った。
しかし、その時急にレコーディングブースの扉が開いて、誰かが入ってきた。



「か、ず君…?」
「はい、私です。呼んだでしょ?」



ドアを開けたのは、どこからどう見ても和君。
和君は首を傾げて小悪魔顔。
タイミングがピッタリ過ぎて、私は動揺して鉛筆を取り落とす。



「な、なんで?」
「なんでって…」



和君は落とした鉛筆を拾い上げ、私の手に乗せた。



「さっきスタッフさんが言ったでしょ?先にデュエット録っちゃいましょうかって。」
「そ、うだっけ?」



鉛筆と一緒に私の手を握った和君は、そのまま少し私を引き寄せて耳元に口を寄せる。



「辛そうだったから、先に回してもらったんです。」



小さな声でそれだけ告げると、和君は何事も無かったかのように隣に立ってヘッドフォンを付けた。
キョロキョロと辺りを見回すと、マイク越しにスタッフに指示を出す。



「リラックスしてやりたいんで、椅子もらっていい?小雨の分も。」
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