第7章 待ち合わせ 【Type N】
すれ違うスタッフに「お疲れ様でした~」と声を掛けながら駐車場に向かう。
今日の和君は自分の車で来たみたいなので、和君の運転で帰宅する。
助手席に乗り、2人だけの車内。
「じゃ、行きますね。」
「お願いしまーす。」
和君は私の自宅へ向けて車を走らせる。
「最近、俺待ち合わせ好きなんですよ。」
「あぁ、さっきの話ですか。」
おもむろに和君がさっきの話を蒸し返す。
その声はやっぱりニヤついていた。
「なんでかっていうとね、待ち合わせすると絶対待っててくれるわけじゃないですか。」
「…まぁ、待ち合わせですからねぇ。」
「待ってるところに俺が現れるとどうなるか分かります?」
「…はぁ…?」
私は意味がわからないという風に間抜けな声を出した。
すると和君は今までよりもっとニヤついた…というより嬉しそうな声で答えた。
「一瞬でもね、「あ、来た!」って感じの嬉しそうな顔になってくれるんですよ。」
「…ふむ?」
「俺のことそんなに待っててくれてたんだって思って、俺は嬉しくなっちゃうんです。」
「…私そんな顔してた?」
「気付いてないでしょうが、毎回してますよ。」
言われて私はなんだか急に恥ずかしくなる。
今日もしてたのだろうか…。
嬉しそうな顔。
「だから最近、待ち合わせが好きなんです。
というわけで、明日も待ち合わせしましょうね。
朝迎えに来ますからそこの信号の下にいてください。」
気付くともう自宅のマンションの真下に到着していた。
和君は淡々と明日の約束まで取り付けると「おやすみなさい」とふんわり笑った。
私はつられて「おやすみなさい」と答えると、荷物を抱えて車を降りる。
「寝坊しないでくださいね~」
助手席の窓を開けてそう言い残すと、和君は走り去って行ってしまった。
私は和君が待ち合わせに現れる瞬間の記憶を引っ張り出しては、その時自分がどんな気持ちだったか、どんな顔をしていたのかを思い出そうとしていた。
と、そこである考えに至る。
「和君、私以外と待ち合わせしたことないじゃん。」
和君が私以外の人と待ち合わせの約束を取り付けているところを見たことが無い。
それは私の喜ぶ顔が見たいから?
それとも単なる気まぐれ?
明日、どんな顔を作っても…
「それでも結局、喜んじゃうんだろうな…」