第2章 「女の子」だけの特別。 【Type N】
今日は朝からお腹が痛い。
男の子を演じることができても、避けることができないもの。
それが、女の子の日。
家を出る前に薬を飲んで、お腹にカイロを貼ってお腹を温めた。
が、今回の症状はなかなか頑固。
幸いにも、今日の予定はスタジオでアルバムのレコーディング作業しかなかったのでほとんど座って過ごしていられるし、カメラを気にする必要もない。
とはいえ、専属スタッフの他にもスタッフはいるので男装で過ごさなくてはならない。
男の子にはもちろん「女の子の日」なんてものは存在しないので、私はこの1日を何食わぬ顔で乗り切らなくてはならなかった。
涼しげな顔で待機ブースのソファに座ってみる。
スタッフと軽い打ち合わせをし、メンバーが順番にレコーディングしている間は歌詞やメロディをさらっておく。
今回のレコーディングはデュエット曲も入っており、2人一組でレコーディングに入る場合もあるそうだ。
「うぅ…」
スタッフがいなくなるや否や、身体を折りたたんで顔を歪ませる。
そのまま目を閉じて、痛みが引くのを待つ。
「生理ってやつですか。」
いつの間にかレコーディングをひと段落させた和君が目の前に立っていた。
歌詞カードを持ち、腰に手を当てて呆れたような顔で私を見下ろしている。
見つかったのが和君で良かった。
「か、和君…デリカシーない…。」
「今の小雨は『男の子』だからね。デリカシーは『女の子』にだけ存在します。」
「すごい理論だよ…。」
前かがみになったまま苦笑する私。
和君は私の横に座り、何とはなしに腰に手を当ててくれる。
「『手当て』って言葉あるでしょ。」
「うん…。」
「こうやって手を当ててるだけでも痛みって和らぐんだって。だから『手当て』って言うらしいよ。」
「気功か何か…?」
「んー、まぁ、そんなとこですかね。にのちゃんのスペシャル気功。特別効きますよ。」
和君はそう言ってフッと笑った。
和君の言葉はいつも嘘か本当かわからない。
でも今は、本当のような気がする。
あったかい優しさが、和君の手を通じて身体に染み込んでくるみたい。
しばらくそうしてもらっている内に、痛みの波は遠ざかっていった。
和君は何も言わずに、時々腰に当てた手を上下に動かして腰をさすってくれた。