第5章 君の手 【Type M】
「俺は平気。やろう。歌おう、最後まで。」
みんなの心配そうな顔が私を見ていることに気付き、私は当然のように頷いた。
こんな大雨の中でのコンサート経験は、私にはない。
でもそれだけではなくて、みんなは私の“特殊な性質”に関しても心配をしているのだろう。
こればかりは自分にしかわからないことだから。
しかし、調整段階で、いろんなケースを想定して調整しているので、大雨くらいではなんともない。
そう思って、私は返事をした。
「小雨ならそう言うだろうなって思った。」
「潤君…。」
再び立ち位置に戻った私は、今度は潤君に囁かれる。
潤君に信頼されていることが嬉しくて、私は思わず潤君を見上げた。
「惚れた?」
潤君はニヤリと笑って私を見つめる。
私は思わず視線を逸らし、口を尖らせる。
そんなの反則だ…。
「惚れてない!ぜーんぜん!惚れてない!」
「本当かな~?」
段々、セットが開いていく。
潤君は私の顔を覗き込むようにして、段々近づいてくる。
「近い近い!!」
私はそれを押しのけて、潤君の頬にマイクを押し付ける。
ファンのみんなからも見えているところでこんなことをするなんて。
みんなはただじゃれているようにしか見えてないんだろうけど…。
外は大雨。
屋根から一歩外に出ると、シャワーを浴びたみたいに一瞬でびしょ濡れになる。
なんだかそれすらも楽しくて、私は花道を一直線で駆け抜けた。
スタンドのファンを煽りに行く。
すると後ろから潤君がツアータオルを被せてじゃれてくる。
私はそれに付き合ってタオルを奪ったり被せ返したり。
すると、潤君はじゃれ合いながらマイクに声が入らないようにタオルを上手く被せ、私に耳打ちする。
「Tシャツ透けてきてるから羽織っとけ。」
一瞬でそう告げられると、次の瞬間には私は頭からタオルを被せられていた。
タオルの中で自分の格好を見ると、濡れた白のTシャツが身体にくっつき、さらしが透けて見えそうになっている。
ごまかしはきくが、見えないなら見えない方がいい。
私は潤君にお礼を言おうとしてタオルから頭を出した。
すると潤君はもう遠くに走っていってしまっていて、私はそのままタオルを肩から掛けると再び歌に戻った。
最後にまた、横一列に並んで隣に潤君。
私はまた潤君に囁く。