第5章 君の手 【Type M】
野外ライブでの醍醐味は、空が見えること。
自然の風を肌で感じられること。
でも、天敵がいる。
「雨だ…。」
ぽつ、ぽつ、と最後の曲で雨が降り出す。
花道を歩きながらファンの歓声に手を振り、1人空を見上げて呟いた。
この後はWアンコールまで曲を用意している。
みんなをグルッと見回すと、潤君と目が合った。
潤君は小さく頷いた。
この目は『あとで相談。』の目。
私も小さく頷き、再び手を振ったりうちわに指を差したり、みんなの気持ちに応える動作に戻る。
「みんな本当にありがとう!!」
「ばいばーい!!」
「気をつけて帰れよー!!」
「ありがとーう!!」
「また遊ぼうぜー!!」
「じゃあねー!!」
セットが動いて、目の前が閉ざされる。
その瞬間、みんなひとまずツアーTシャツに着替えるためそれぞれの着替えブースに戻る。
「どうする?」
「1回出るっしょ。」
和君の問いかけに、潤君は迷わず答える。
この程度の雨ならまだいける。
みんな手早く汗を拭い、着替えを済ませる。
そして再び先ほどのセット前に立つ。
外からは「嵐!嵐!」と呼ぶたくさんの声。
「嬉しいね。」
横並びに手を繋ぎながら、私は隣の潤君に囁いた。
潤君はちょっと笑って「そうだね。」と言った。
セットが動く。
アンコールの前奏が予定通りに鳴り始め、歌が始まる。
アンコール曲は2曲。
2曲目の終わり頃、雨は更に強さを増していた。
ただの雨どころではなく、大雨。
そういえば台風が近づいているという天気予報を朝、見た気がする。
視界が悪くなりながら、今度もまた感謝の言葉を述べてセット裏に消える。
「まだ呼んでるね。」
潤君が雨を拭いながら、困った顔をする。
「俺らはいいけど、みんなの安全がさ。」
今度は翔君が、ファンの皆の帰りを心配する。
「でもまだアナウンス流してないですよ。挨拶だけでもいかないと。」
そう。
Wアンコールを想定しているので、閉演のアナウンスはまだ流していなかった。
そうなると、挨拶だけでも外に出ないといけない。
「俺らは雨でも平気だけど…」
「小雨って雨どうなの?」
雅君が私を心配そうに見ている。
智君はキョロキョロとスタイリストさんを探すと、確認を取っている。