第3章 泣き場所 【Type S】
子供みたいに泣きじゃくって、翔君はその間、ずっと私の頭を撫で続ける。
「おぉ、おぉ。よく泣くこと。」
「なんでっ…うっ、うまく、いかないこと…ばっかで…!」
「うん。」
「自分ばっかり、って…思っちゃって…!」
「うん。」
力任せに翔君の胸を叩き、シャツを握り締める。
肩で息をしながらひたすら泣いて、メイクが落ちるのも、翔君のシャツが濡れていくのもお構いなしに泣き続けた。
「長くやってればそういうこともあるんじゃね?」
「うっ…ヒック…うぅ…」
「俺らもさ、スランプ?そういうの。あったこと、あるよ。」
「…あるの?」
私はなんとなく、みんなは他の人とは違うから『嵐』をやってこれてるんだと思っていた。
たくさんの人口の中でこの人たちが選ばれたのは、他の人とは違う"何か"を持っているから、と。
私ももちろんその1人ではあるけれど、後から入ったということは今でも溝の一つで。
もし私が"何か"を持っていたなら、結成の瞬間にそこにいたんだろう、と、何度も考えていた。
でも翔君は今、私と同じ状態になったことがあると言った。
私と、同じ。
翔君も、私なんかと同じことが存在するんだ。
「そりゃ、長くやってればあるでしょうな。でもさ、みんな自分のやり方でそれ乗り越えてるから今も『嵐』なんだよな。」
「嵐で…いたいよ…。」
溝があっても、私だけが普通でも、与えられたこの場所は居心地がいいから。離れたくないから。
素直な気持ち、だった。
「うん。だからさっきも練習してたんでしょ?」
「き、気付いてたの…?」
「気付かないわけ無いでしょ、うちの小雨は頑張り屋さんだから。」
翔君はまた頭を撫でる。
優しくしないで。
そんなに優しくされたら、また、涙が止まらない。
「泣き虫小雨。」
「だってッ…!」
だって、翔君の優しさが染みちゃうから。
私の乾いた心に、染みちゃうから。
「いつでも頼っていいって言ってるのに。」
「ごめ、なさ…っ」
「はいはい。」
分かってますよ、というように、翔君は頭を撫でる。
その一定のリズムが心地いい。
段々、泣くのが収まって、呼吸も落ち着いた。
翔君はそれに気付くと楽屋の時計に目を向けた。
「っと、俺そろそろ次の現場いかねーと。」
「う、うん。ごめんね。」