第3章 泣き場所 【Type S】
私も時計に目をやり、自分もそろそろ着替えないといけないことに気付いた。
傍にいてくれた翔君が、身体を離す。
「んじゃ、あんま頑張りすぎんなよ。」
「うん…。」
私の目尻に溜まった涙を、人差し指の背で拭ってくれる。
「あと…」
翔君はドアの前まで行ったと思うと振り返って、口元を押さえて視線を泳がせていた。
知ってる。
このしぐさは、翔君が照れてる時。
「その…お、男の格好してても、可愛いもんは可愛い、から。」
「…ん?」
「涙目で上目遣いは、禁止。」
思いっきり顔を赤くして、私にビシッと指をさした。
そのまま私の反応を待たずにドアを開けて出て行く。
「禁止って…」
私は鏡の前に立ち、目を赤くした自分の顔を見た。
途端に翔君に抱きついて泣いていたのが恥ずかしくなる。
「う、わ…誰にも見られなくて、良かった…。」
事情を知ってるスタッフが見たら何か誤解されそうだし、事情を知らないスタッフが見ても何か誤解されそうだ…。
翔君の口ぶりはなんだかオネエのようでもあったけど、本人はそういう意味で言ったんじゃないことぐらい分かる。
そう思うと、余計に1人でドキドキする。
翔君は、誤解されたら…迷惑、ですか?