第3章 泣き場所 【Type S】
最近の私は絶不調。
歌番組で振り付けを間違え、バラエティではトークを上手く回せず、冠番組でさえも台本を間違えたりと、みんなの足を引っ張り続けている。
「どうしちゃったんだ…」
楽屋で1人、落ち込みモード。
確かに最近、嵐のスケジュールが落ち着いてきたので、またモデルもメイドも仕事を増やしていた。
そのせいでダンスや台本など、目を通したり復習したりする時間が削られていることはあった。
でも、そんなのは甘え。
嵐になったばかりの頃は寝る間も惜しんでこなしてきたことだ。
「よし、今から練習しよう。」
次の歌番組収録に向けて、空き時間の今の内に楽屋の鏡で振り付けの確認をすることにした。
この楽屋は、今回は私専用。
着替えが多い撮影だったので、スタイリストさんと相談して分けてもらったのだ。
他のメンバーはいつもどおり、5人一緒の楽屋だ。
「ふぅ…やっぱりあそこのステップ、気を抜くと忘れるな…。」
気になるところを重点的に、身体に直接叩き込む。
何ループ目かわからないくらい踊り続けていると、ふいに楽屋のドアがノックされた。
コンコン
「小雨~?俺、翔君ですけど~。」
その低い声が聞こえると、私は慌てて音楽を消し、近くにあったタオルで汗を拭くと、何事も無かったかのようにソファに座って携帯をいじるフリをする。
「どうぞ~。」
ゆっくりとドアを開けて入ってきた翔君は、「あれ?」と声を出した。
「さっきまで音楽流れてなかった?」
「ん?あぁ…着信音かな?」
私は咄嗟に携帯を振って、これですよ、の合図をした。
翔君はそれを見て大げさにため息をつく。
「な、何?」
「小雨、また溜め込んでるでしょ。」
「そ、んなこと…ない。」
無意味に携帯をつけたり消したりしている私に見かねたのか、翔君はその携帯を取り上げて、私に顔を上げさせた。
私は携帯を目線で追って、自然と翔君と視線が合う。
「ったく、相変わらず頼るの下手くそ。」
翔君は携帯を机に置いて隣に座り、今度は私の頭を抱き寄せて自分の胸に寄りかからせる。
「今日は、甘えさせてあげましょう。」
ポンポン、と頭を撫でられたその瞬間、私は糸が切れたみたいに泣き出した。