第11章 記憶の引き出し
思わず携帯をベッドに叩きつけた
ダメージが少ないところに叩くあたり
一応、冷静は保てているらしい
落ち着け、落ち着け、と
心の中で何度も言葉にする
呼吸を整え
さっきより震えている手を伸ばして
再度、携帯を開いた
そして今度は写真でなく
メッセージの方を表示させる
パッと見、短い文章だ
〝なあ侑士これって〟
〝りおな…だよな?〟
岳人もきっと動揺しているのだろう
でもそれはこっちも同じ
〝これいつ撮った〟
いつも以上に愛想のない文章に
すぐに付く既読の文字
そして10秒とたたないうちに
携帯が震え始めた
画面には岳人、と表示された
『もしもし』
『侑士!?これって絶対』
『間違いなくりおなやろうなぁ』
『え、跡部と別れたのか…?』
『いいや?つい最近会うたけど
別れたようには見えへんかったわ』
それどころか結婚を考えているんだと
これは、今伝えるべき情報か
『あの女、跡部を捕まえとって浮気か。
なめとんなぁほんと』
『いやでもなんかの間違いかも…』
『は?長年付き合うとる男がおるのに
別ん男と手ぇ繋いで歩くバカおらへんやろ。
岳人もそう思ったから
俺に言うてきたんとちゃうんか』
『ど、どうしたんだよ侑士』
どうした?どうしたもこうしたもない
腸が煮えくり返るほどの不愉快さ
こんなの味わったことがない
俺たちは、俺たちが
あんな女にコケにされているんだぞ
こんな屈辱許してたまるものか
『岳人、今なにしとるんや』
『俺?俺は家にいるけど…』
『宍戸とかその辺、来れるやつ呼んでくれ』
『呼んでどうすんだよ?』
『集合すんねん。
外で話しとうないから俺ん家や』
岳人がまだ何か言いかけていたが
有無も言わず電源を落とす
真っ暗な画面に写った自分の顔すら
腹立たしく感じた