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愛されたい症候群。

第5章 今日はあんみつ食べに来たけど




「ねぇねぇ君1人ー?」

「暇だったりする?」

「良かったら遊ばようよぉ」


ただ歩いているだけなのに
見知らぬ女が無駄に声をかけてくる

1人とか見たら分かるやろ
どこに目つけてんねん

そう言いたかったが白石部長に
「お前は喧嘩を売りすぎや。
ちょっとはおさえろ」

と、言われてから黙っているようにした


「ねぇねぇ」


妙な甘ったるい声に
氷帝にいたあのムカつくマネージャーを
思い出して背筋に寒気がはしる

神経を指でなぞられたような
よく分からない不快感、気持ち悪さ


ポン、と肩を触られて
不愉快さがマックスまで到達して


「触んなや」


青ざめた顔の女を見て
あーやってしまった、と思ったが
悪いのは俺じゃない

触れられたところを右手で払い
もう一度睨むと
女達は慌ててどこかへ走っていった



気分の悪さに吐き気がしそうだ
やっぱりこんな所来なければ良かった

東京に来て良かったと
思えたことがない

中学の時も変なマネージャーに絡まれたし


「あ、」


思わず出た変な声
だけど、そんなのを気にする余裕はなかった

そういえばいい事一つだけであったな
なんて思った瞬間、視界の端で捉えた顔


一瞬だった

3年以上経っている
人違いの可能性の方が高いのに
意味のわからない確信

反射的に動く足は止められなくて


気づけば


「え、?」


名前も知らない女の手首を掴んでいた



驚きと困惑が隠せないという表情で
俺を見つめるその顔は
あの日見た顔に間違いなかった

叫ばれてもおかしくない
どう考えても怪しすぎる行動

自分が何を考えてるかもはや分からない


「ど…どなたですか?」

「あ、っと、すんません」


意外にかわいい声してるんだな、とか
思ってる場合ではない

知らない人間に手首なんて掴まれたら
俺なら振りほどいている

パッと離すと
彼女は変わらず不思議そうな顔で首を傾げた


「私に何か御用でしょうか」

「え、と」


もし会えたら俺の名前を覚えてほしい、とか
会話を交わしたいとか
色々考えたりしていたけど

実際こんな状況になると
何も出てこないし頭の中真っ白


「こ、この辺で」

「?はい」

「ぜんざいの美味い店知らへん?」


自分が何を言ったか
自分でも分かってないって
案外、怖いことだ



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