第5章 今日はあんみつ食べに来たけど
「あ!!財前やぁーっと見つけたでぇ!!」
「こんな所までよー来ましたね」
「他校来てまで何サボっとんねん!」
「やる気でーへんでしゃーないっすわ」
ぶーぶーと怒る謙也さんを適当にあしらい
一緒にコートまで向かう
先輩に怒られるとかどうでもいい
頭にあるのはさっきの(多分)女子マネージャー
この人は知っているだろうか
…いや、多分知らない
俺だって部室棟に近づかなければ
知らないままだった
「白石怒っとんでー。
オサムちゃん…はいつも通りやけど」
「謙也さん」
「ん?」
「氷帝のマネージャーって1人っすよね」
「りおなちゃんやろ?
あーんな美人さんおるなんて氷帝の奴ら
羨ましいわぁ」
こっちに来んかなー、とぼやく謙也さんを
有り得ないという目で見る
あんなのが入って来たら
俺はテニス部を辞める気がする
テニスコートに着くと
白石部長がため息をつきながらこっちに来た
「財前…お前合同練習でサボり決め込むとか
なに考えてんねや」
「すんません」
「思ってへんやろ!
ほら、りおなちゃんも心配しとったんやで」
「財前くん大丈夫?気分悪いの?」
今お前の顔見たせいで気分がすこぶる悪い
…そんなこと言えば先輩らに
何を言われるか分からない
できるだけ顔を見ないようにしながら
すんません、と軽く首を振った
「無理しないでね?
辛かったらいつでも言ってほしいな」
「ほんまりおなちゃんは優しいなぁ」
「可愛らしいしええ子やねぇ!」
「小春浮気か!?」
くだらない茶番に付き合わせないで欲しい
戻ってきてしまったなら
もうテニスに集中するしか無いだろう
軽く身体を動かしてラケットを持つ
いつもならそれでスイッチが入るのに
まだ頭の中にはあの子が残っていた
だけどその日1日が終わっても
あの子の姿をまた目にすることは無かった