第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
コハクは知っている。
今、ローが1番恐れているのは、モモが離れていってしまわないかということだ。
長年の絆を育んだ他の仲間たちとは違い、モモはいつでも船を下りてしまう可能性があるから。
だからこそ、ローに言っておきたい。
「オレはこの船を下りない。」
「……?」
コハクの言いたいことが今ひとつ理解できないのか、ローは首を傾げる。
まあ、これで伝われという方が無理な話だとは思うけど。
「…オレがここにいる限り、きっと母さんも船を下りないよ。」
そう言うと、ローはハッとして驚いたようにコハクを見た。
当初のモモの目的は、コハクを医者にするために島から旅立たせること。
ハートの海賊団に入ったのは、ただの成り行きだった。
それだけを考えれば、モモはいつでも船を下りてしまうように思える。
けれど実際は、モモはそう簡単にコハクと離れられない。
人のことをとやかく言うくせに、結構な心配性な彼女は、きっと本当の意味でコハクが独り立ちできるまで傍を離れられないだろう。
こんなふうに同じ船に乗ってしまえば尚更…。
だから、モモはコハクがここにいる限り、船を下りることはないのだ。
「…オレは、船を下りないよ。」
ローのもとで医者になりたいから。
モモに幸せになって欲しいから。
だから、自分は船を下りない。
ただ、それだけローに伝えたかった。
こちらを見つめるローは、口を閉ざしたままなにも言わない。
うまく伝わったかどうかはわからない。
「……そうか。」
ようやく口を開いたローは、それだけ言うとまた海を眺めた。
「…そうだよ。」
だからコハクも、ただそれだけ言って同じように海を眺めた。