第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
婚姻を認められる年齢は、国どころか集落によって異なる。
20歳と定める町もあれば、18歳と定める村もある。
そしてウォルトが生まれ育った狩猟村で婚姻を結べるようになるのは、なんと12歳だという。
「12歳……、12歳って……。」
あまりの若さに、二の句が継げなくなって硬直する。
12歳なんていったら、初潮を迎えているとも限らない年齢だ。
しかしモモの仲間はというと、それほど驚いた様子がない。
「おれの故郷も、そのくらいで結婚するやつがいたかな。」
と、懐かしそうに呟いたのはベポ。
彼は獣に近しいミンク族なので、あまり基準にはならない。
「あの有名なサムライの国も、そのくらいで所帯を持つらしいッスね。」
「そ、そうなんだ……。」
「どっかの遊牧民なんか、一桁のガキが花嫁っても珍しくないもんな。」
「ひとけた……。」
世界は広い。
ただその一言に尽きる。
「えぇっと、つまり、ウォルトはお嫁さんになる婚約者のために、白い鹿を狩りたいの?」
無言で頷くウォルト。
なんとまあ、この歳にして甲斐性がある男である。
「でも、白鹿は滅多に出会える獲物じゃないし、花嫁衣装を拵えるのに十分な大きさの個体となると、なかなか……。」
恐らく、もう何日も探しているのだろう、ウォルトの顔には疲れの色が見えた。
「別に、鹿に拘んなくたっていいだろ。代わりを探そうと思えば、いくらでも見つかるはずだ。」
珍しく、ローが会話に混じる。
彼の興味をそそるような話題でもないのに、とモモは首を傾げた。
しかもローの言い方は、どこか己に言い聞かせているようで。
初対面のウォルトがローの様子に違和感を抱くはずもなく、言い放たれたセリフにまっすぐな瞳で応える。
「嫁になる女が憧れてるものを手に入れられないなんて、そんなの男じゃねぇ!」
先ほどまでの落ち込みようはどこへやら。
ビシッと言い切ったウォルトに、ローが僅かに身動いだ。
まるで、痛いところを突かれた、とでも言うように。
「……撃たれたな。」
「うん、撃たれたね。」
仲間たちの訳知り顔の囁きは、モモの耳に届かなかった。