第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「…コハク。」
海賊船に現れたのはモモではなく、その息子であるコハクだった。
「なにしてんだよ、こんなところで。」
「別に…。やかましい宴に飽きただけだ。」
やってきたのがモモでないことに安堵しながら、適当に誤魔化す。
「ふぅん…。」
自分から聞いておきながら、たいして興味がなさそうに相槌を打ったコハクは、ローの傍に寄ってきて同じように海を眺めた。
コハクこそなにをしに船へ来たのだろうと考え、それからモモを探しているのだろうと思い至る。
人のことを言えたことではないが、コハクはモモのことになると心配が過ぎる。
しばらく姿が見えなくなった彼女を心配して探しに来たのだろう。
「…モモなら、城の中庭の方にいる。そろそろ広間に戻るんじゃねェか。」
なぜ知っているのかと問われると面倒だが、黙っているのも悪い気がしてモモの居所を教えてやる。
「ん…? ああ、うん。」
けれどローの予想と異なり、コハクはそのことに対してたいした反応を見せなかった。
「アイツを探してたんじゃねェのか。」
「んー、まあ…な。」
なんとも曖昧な返答だ。
もしかしたらモモを探しているわけではなかったのかもしれない。
だとしたら、コハクはなぜこんなところに現れたのだろう。
「あの…さ。」
互いに黙っていると、コハクの方から口を開いた。
「なんだ。」
「…オレ、ローに言っておきたいことがあるんだ。」
「……あ?」
言っておきたいこと?
今さら改まってなんだろう。
(…コイツ、まさか俺を探してここまで来たのか?)
だとしても、コハクが言いたいことの想像がまったくつかない。
「言ってみろ。」
そう促すと、モモとはまるで似つかない、目つきの悪い黒瞳がこちらを見上げた。