第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
たぶん、こんな話をしらほしにしても、事情を知らない彼女は意味がわからないだけだろう。
それでもモモが胸の内を叫んだのは、もしかしたら誰かに聞いて欲しかったからなのかもしれない。
6年前のあの日を、そして先ほどのローの言葉を思い出すと、鼻の奥がツンと痛くなる。
目の奥が熱い…。
涙が溜まり始めているのがわかる。
けれど、泣いてはいけない。
なぜならば、涙を流した瞬間、モモは痛みに耐える可哀想なヒロインになってしまうから。
悲劇のヒロインなんてとんでもない。
自分は被害者ではなく、加害者だ。
可哀想ぶって泣くことなんて間違ってる。
罪は償わなければ。
一生ローと想いを通じ合わせることはない。
それがモモの贖罪なのだ。
だから、どんなに辛くても込み上げる涙は必死に飲み込んだ。
ボタ…ッ。
涙は流さまいと堪えていたのに、ふいに雫が落ちる音がした。
慌てて頬を拭ったが、白い頬に涙の痕跡はない。
ボタボタ…ッ。
さらに続けて雫が落ちる。
音の方向に目を向ければ、唇を噛み、大粒の涙を零すしらほしの姿があった。
「…なぜ、泣くの?」
心底辛そうに涙を流すしらほし。
けれど彼女にはモモの話の内容などわからないはずだ。
「モモ様が…、泣かないから…。」
「え…?」
「モモ様が泣かないから、わたくしが代わりに泣くのです…!」
一見なんの理由にもなっていないような言い分だが、きっと心優しいしらほしにはわかったのだろう。
モモの痛みも辛さも。
だから、自分の代わりに泣いてくれるのだ。
「泣かないで、しらほし。わたしはあなたが思うようないい人じゃないの。」
むしろとんでもなく身勝手で、嫌な女だ。
けれど、しらほしはブンブンと首を横に振る。
「いいえ…ッ、モモ様は優しく思いやりのあるお方です! わたくしはもう、知っているのです!」
共に過ごした過ごした時間は長くないけれど、モモの人となりは理解している。
「…どうして、わたしのためにあなたが泣くの?」
なにを言っているんだろう。
そんなの決まってる。
「だって、わたくしたちは…お友達なんですから!」
友達が友達のために涙を流すのに、理由なんかいらない。