第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
しらほしには、モモの言うことの半分も理解できなかった。
ローから大切なモノを奪った?
だから隣に立てない?
だったら、だったらそんなモノは…。
「ロー様にお返しすればよいではありませんか、その大切なモノというのを。」
そうすれば、問題は解決してモモもローを受け入れられる。
そうでしょう?
瞬間、モモの胸に鋭い痛みが走る。
しらほしの言葉はモモの胸を抉るものだった。
喉の奥が震える。
それでも、まるで胸の中から込み上げてくるような熱いものを、声に出して吐き出した。
「返せないのよッ! だって、消しちゃったんだもの!」
叫びにも似た大声に、しらほしがビクリと怯えたのがわかった。
でも、今のモモには彼女を気遣う余裕がない。
犯した罪が、罪悪感と共にボロボロと零れ出す。
「返せるものなら、とっくに返してる! でも、わたしがローから奪ったモノは、取り返しのつかないモノなの…ッ!」
奪ったモノは、かけがえのない記憶。
ローだけじゃない。
ベポとシャチ、ペンギンからも奪った。
そして、コハクからは父親を奪った。
もし、モモに全てを返すことができたなら、再会したあの瞬間、全てを元通りにしたかった。
けれど、それは無理。
彼らから記憶を奪うということは、セイレーンの力をもってしても、とても難しいものだった。
それも、綺麗に自分のことだけ。
半端な覚悟じゃ、成功しない難しい歌。
だからあの日、モモは全てを捨てる覚悟をしたのだ。
愛する人と、仲間と、永遠に会えなくてもいい。
共に過ごした宝物のような日々は、彼らの中から消え去ってしまって構わない。
“永遠の別れ”
それが、モモの覚悟だった。
いつでも戻せるような中途半端なやり方じゃ、きっと記憶は奪えない。
だから、二度と戻らないように、記憶を砂のように粒子と化して吹き飛ばした。
モモがみんなに行ったのは、記憶の封印なんかではない。
記憶の消去だったのだ。
あの日、モモが唄ったのは、そういう歌。