第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
2人の話を盗み聞くつもりはなかった。
モモの戻りがずいぶん遅いから、水中通路を使って探しに来ていたのだ。
そうしてこの中庭を通りがかったところで、誰かの話し声が聞こえ、足を止めてみた。
声の主は、モモとロー。
2人が一緒にいるとは思わなかったしらほしは、そのまま静かに立ち去ろうとした。
けれど、聞こえてきた会話の内容に、思わずその場に踏みとどまってしまう。
『お前が、好きだ。』
その言葉に胸を熱くさせたのは、モモだけではなかった。
しらほしの胸も同じく、熱く高鳴る。
ほら、ほら、やっぱり…!
誰に言うわけでもなく、心の中で叫んだ。
ローがモモを見る眼差しには、なにか熱いものが含まれていると常々思っていた。
これが女の勘というものなのだろうか。
見事的中した自分の考えに、なおさら胸が熱くなる。
ローはモモが好きで、モモもローが好き。
それってつまり、両想いということだろう。
人は生涯ただひとりだけを愛し愛され、共に歩んでいく生き物だということは知っている。
けれど、実際に想いが通じ合う瞬間を目にしたしらほしは、今まで読んだどんな恋物語より、感動と高鳴りを覚えていた。
モモ様、ほら、言ってください。
わたくしに教えてくださったように、ロー様のことが好きだと伝えてください。
2人の幸せな結末をこの目で見たかった。
けれど…。
『……ごめんなさい。』
え……?
なぜモモは謝るのだろう。
ここは、謝るところじゃない。
自分も好きだって、そう言うところだ。
『ごめんなさい。あなたに恋愛感情は持てないの。』
謝罪の意味を問われたモモは、はっきりとローにそう告げた。
耳を疑った。
だって、そんなの嘘だ。
言ったじゃないか、ローが好きだと。
教えてくれたじゃないか、海底の洞窟で。
『好きだから…、好きだから涙が出るの。』
そう言って溢れんばかりの想いを教えてくれたのは、たった今、ローの想いを跳ねのけたモモ自身だったのに。