第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
それから、ローとなにを話したのかあまり覚えていない。
ただ、みんなのところへ戻ろうと言ったローに「やっぱりもう少し休憩する」と応えて、モモはひとり中庭に残ったのだ。
先ほど座っていたベンチにもう一度腰掛け、放心したように海を見つめる。
ローの想いを断ったのはモモの方だというのに、まるで自分が失恋をしてしまったかのような喪失感だ。
この状況を“寂しい”と思ってしまうとは、なんて身勝手なのだろう。
でも、後悔はしない。
これでいいのだ…。
『……ッ、ぇ…ん…。』
「……?」
放心したモモの耳に、どこからか奇妙な音が聞こえてきた。
『…っひ…ッ、う…ぇ…んッ』
いや、音ではない。
これは声だ。
それも、泣き声。
どこから聞こえてくるのだろう。
声はくぐもって聞こえにくい。
きょろきょろと辺りを見回した時、目の前の海面が急に盛り上がり、ザパンと水しぶきを上げた。
何事かと驚いて、息が止まった。
「うぇ…ッ、ひっく…、えぇえん!」
耳に届いたのは、どこかで聞いた泣き声。
「……しらほし?」
海の中から現れたのは、何を隠そう、この国の王女だった。
「ひぐ…ッ、うえぇん…!」
泣き虫は卒業したはずなのに、しらほしは綺麗な瞳から大粒の涙をボロボロ零した。
「どうしたの…!?」
誰かにヒドイことをされたのか。
はたまた酒に酔っただけなのか。
慌てて傍に寄ると、しらほしは腫らした目をモモへ向けて意外なことを口にした。
「なぜ…ッ、なぜ、あんなことを言ったのですか…!?」
「……え?」
しらほしの眼差しは、少しだけモモを責めるようなものだった。
「言っていたではありませんか! ロー様のことがお好きだと…ッ」
「しらほし…。聞いていたの?」
愕然とするモモの前で、しらほしは正直に頷いた。