第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
ほんの僅かな時間、2人の間には沈黙が流れた。
その沈黙が、永遠にも感じられるほど長く思える。
モモは視線を下に向けたまま、ローの目が見られない。
「…それは、どういう意味の謝罪だ。」
落ちてきたローの問いかけは、先ほどの声色よりもずいぶん低いものだった。
きっと、傷ついている。
ズキリと胸が痛んで、「嘘よ、わたしもあなたが大好き!」と叫び出したくなる。
けれど、自分の嘘には最後まで責任を持たなくてはいけない。
吐き出す言葉がローを傷つけるものと知っていても、モモには突き通す義務があるのだ。
「ローのことは、尊敬してるわ。医者として素晴らしいと思うし、人としても好き。」
わざと明るい口調で言ったのは、声が震えないように己を奮い立たせるため。
じゃないと、勘のいい彼は気がついてしまう。
「…でも、ごめんなさい。あなたに恋愛感情は持てないの。」
よくもまあ、こんなデタラメが言えるものだ。
けれど、ローの目だけは未だに見られない。
もし今、彼が傷ついた表情をしていたら、ガチガチに固めた覚悟が、簡単に崩れ去ってしまいそうだから。
「そうか…。」
しばらくしてローの口から出た返事は、抑揚のないものだった。
「そりゃァ、悪かったな。変なことを言っちまった。」
「…ううん。気持ちはとても嬉しいの。」
それだけは、本当。
嬉しくて嬉しくて、堪らないのよ。
「お前はまだ…、コハクの父親が好きなのか?」
その問いかけに、微かな笑みが零れた。
うん、そう。
今も昔も、彼だけが好き。
「そうよ、あの人だけを愛しているわ。」
けれどこの告白が、あなたに伝わることはない。