第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
“お前が、好きだ。”
その言葉の意味を理解するのに、数秒はかかった。
ローが、わたしを好き…?
そしてその事実が頭に染み渡るまで、さらに数秒。
わたしを、好き…。
じわじわと胸が熱くなってくる。
まず沸き起こってきたのは、嬉しいという気持ち。
だってそうでしょう?
大好きなあなたが、わたしを好きと言ってくれた。
これ以上の幸せはない。
嬉しい、嬉しい。
わたしも、あなたが……。
『ああ。俺も、お前が好きだ。』
ふと、頭の中に記憶が蘇る。
過去にそう言ってくれたのは、誰だったろう。
わたしの震える身体を強く強く抱きしめてくれたのは、誰だったか。
目を瞑ると、あの時の出来事がまるで昨日のことのように思い出される。
あれは、モモが初めて“自分の歌”を唄った時。
想いが溢れて溢れて、止められなかった。
ローが好き。
大好き。
この気持ちを伝えたい。
そんな想いを歌にした。
まるで弾丸のようなモモの想いを、ローは両腕を広げて温かく受け止めてくれたのだ。
そして言ってくれた。
自分もわたしのことが好きだ、と。
ロー、わたし、あの時ね。
幸せすぎて、空が飛べそうだと思ったのよ。
それくらい幸せだった。
そして、今 あなたは、もう一度わたしを好きだと言う。
ゆっくりと目を開けると、真摯な瞳を向けるローがいた。
その瞳に映るわたしは、いったいどんなわたしだろう。
「お前は…、俺をどう想っている。」
長い沈黙に堪えかねたローが、再び口を開く。
「わたしは…。」
好きよ、大好き。
何度でもあなたに恋してしまうくらい。
でもね…。
『止めろ、俺から…奪うな…ッ!』
最期に聞いた、あなたの言葉。
今もわたしは忘れない。
宝物のような輝かしい日々。
でも、あの日々のローは もういない。
そして、あの日々のモモもいない。
ねえ、何度でも言うよ。
『わたしを、絶対に許さないで。』
嘘くらい吐けなきゃ、生きていけない。
そう教えてくれたのも、ロー、あなただよ。
だからわたしは、今日もまたひとつ、嘘を吐く。
「……ごめんなさい。」
零れ出た嘘は、想像以上に震えていた。