第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
王族の台所を守る料理長は、厳しくてよそ者にレシピなんか教えてくれないのではと内心覚悟していたが、実際はそんなことはなく、とても優しい人だった。
魚人島秘伝のお菓子や料理のレシピだけではなく、気のよい料理長はリュウグウ王国ならではの香辛料や食材までも分けてくれた。
ほんの少しだけでも教えてもらえたら…と考えていたモモにとっては大収穫である。
ご機嫌で大広間へと続く廊下を歩いた。
宴は大いに盛り上がっており、楽しげな笑い声がここまで聞こえてくる。
(ちょっと休憩しようかな…。)
今日はいろんなことがありすぎた。
賑やかな宴に戻るのもいいけれど、少し静かなところでひと息つきたい。
曲がり角を少し行ったところで、ちょうどいい中庭がある。
勝手に立ち入っていいものかと一瞬考えたが、少し休憩するだけだし、招かれている身として これくらい許されるだろう。
そう思って足を踏み入れた。
「わぁ、素敵…。」
さすがは王城の中庭。
手入れが行き届いているし、海と繋がっていて幻想的だ。
思わず感嘆の言葉が漏れてしまう。
美しく咲き誇る花壇に設置されたベンチに腰掛ける。
いつの間にかすっかり日は暮れて、辺りは薄暗い。
海の中を青白く光るクラゲが漂い、まるで星のようだ。
いったいどれくらい こうしていたことだろうか。
気がつけばずいぶん時間が経ってしまっている。
(いけない、そろそろみんなが心配するわ…。)
心配性のコハクあたりが探しに来てしまいそう。
もう十分休憩はできたし、ベンチから腰を上げた。
その時…。
ザッ、ザ…ッ。
背後から足音が聞こえてくる。
ああ、遅かったかな。
きっとコハクが探しに来てしまったのだ。
そう思って振り向いたが、後ろから近づいてきたのは愛する息子ではなかった。
そういえば、モモの傍にはもうひとり心配性な人がいたんだ。
「ロー…。」
モモを迎えに来たのは、もうひとりの わたしが愛する人。