第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
ほどなくして、デンの家の前にはたくさんの兵隊がたどり着いた。
そして、隊列の先頭には他の兵とは明らかに風体が異なる青年がひとり。
「フカボシお兄様…!」
「しらほし…ッ、無事だったか…。」
しらほしが兄と呼んだのは、ネプチューン王の3人の息子の内、長男であるフカボシ王子であった。
安堵の息を吐くのも束の間、兄から妹へ厳しい叱責が飛ぶ。
「まったくッ、王女ともあろう者が勝手に城を飛び出すなど、なにを考えている!」
「で、でもお兄様…!」
滅多に怒らない兄の怒声に内心ショックを受けたしらほしであったが、ここで引き下がるわけにはいかない。
自分しだいでモモたちの立場が決まるのだ。
しかし、食い下がろうとした しらほしの前で、フカボシは予想外の言葉を発する。
「さあ、早く恩人の方々を城へお連れするんだ。」
「え…?」
恩人の方々…?
聞き違いではない。
確かに兄はそう言った。
「こら、なにを呆けているんだ。」
驚きに固まるしらほしを窘めつつも、フカボシの視線は彼女の背後にいるモモとローに向いた。
そして、心配そうに2人のやり取りを見ていたモモを見つけると、おもむろにガバリと頭を下げた。
「モモ様とお受けしました。私はリュウグウ王国の第1王子、フカボシです。昨日の非礼を我が国代表としてお詫びしたい!」
「ふぇ…!」
王族からの突然の謝罪に思わず変な声が出てしまったモモは、戸惑いを隠しきれず困ってローを見上げる。
「俺を見てどうする…。」
呆れて額を小突いてやったあと、仕方なくローがフカボシに向き直る。
「詫びるとはどういうことだ。コイツはお前らにとって、世界樹が光を失った元凶だったはずだろ。」
そう宣告されて刃を突きつけられたのは、つい昨日のことだ。
「はい…。お恥ずかしいことながら、未だかつてない事態に動転し、文官たちの根拠もない言い分に耳を傾けてしまったことは事実です。」
あの時は自分も父もそれしか原因がないと思っていた。
しかし、しらほしが城を飛び出したあと、よく考えてみたのだ。
大いなる世界樹が、人間に触れられた程度で輝きを失うはずがないと。