第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
沈黙が長くなるにつれ、しだいに胸に募ってきたのは、焦りではなく苛立ち。
(チ…ッ。なにを俺は、そんなに悩んでいる。)
ただ一言“好きだ”と伝えればいいだけなのに。
意を決して静かに自分の言葉を待つモモを見上げる。
ようやく視線が合った彼女の瞳は、心なしか怯えたように揺れた気がした。
「…お前に、言いたいことがある。」
先ほどと同じ言葉を繰り返し、モモの腕をキツく握る。
「……なに?」
モモはモモで、深刻そうに息をのむ。
想いを告げたら、受け入れてくれるだろうか。
ふとそんな淡い期待がよぎった。
こう言うのもなんだが、出会った当初とは違い、モモと自分は良い関係を築けていると思う。
最初こそ彼女にひどいことをして、嫌われて当然であった。
しかし、気持ちを入れ替えたローの態度にモモの見方も変わったのだろう。
最近ではモモは自分を信頼し、好意的な態度をしめしている。
もし、モモが自分と同じように“好き”と思ってくれたら…。
そう考えるだけで、不覚にもローの胸は高鳴る。
それにはまず、自分から想いを伝えなければ。
「俺は、お前が…--」
“好き”
たったその2文字を言えばいいだけ…。
それだけで想いは伝わる。
ガタン!
「--モモ様ッ!」
絶妙なタイミングで、大きな音を立て窓が開け放たれた。
しらほしの呼び声にモモの身体がビクリと跳ねる。
「な…、なに…ッ?」
あまりに驚きすぎて、声がひっくり返ってしまっている。
ローはと言えば、心の中で盛大に舌打ちを吐いた。
今、まさに彼女へ想いを伝えようとした瞬間だったのに!
「あ…。えっと、お邪魔でしたか…?」
2人のただならぬ雰囲気に、今更ながらあたふたとする。
(邪魔だ…!)
そう吐き捨ててやりたいが、声に出すわけにもいかず、苦虫を潰したような表情となった。
「ううん、そんなことないわ。どうしたの?」
こちらの気など知らないモモは、簡単にローの決意を打ち砕く。
(コイツ…ッ)
ほんと、あとで覚えておけよ。