第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
しばらく窓の外を眺めていたモモだったが、しだいに長くなる沈黙に堪えきれなくなってきた。
(謝った方がいいのかな…。)
沈黙を怒りだと思ったモモは、謝罪を考えるが、すぐに思い直した。
(ううん。謝ったって、ローが困るだけよ。)
優しい彼のこと。
きっとモモの謝罪など求めてはいない。
こうして隣の椅子に座ってくれているだけで、そのことが伝わってくる。
しかしそうなると、この沈黙をどうしたらいいかわからなくなってくる。
「…コハクはそろそろ起きたかしら。ちょっと様子を見に行ってくるね。」
コハクの様子が気になるのは嘘ではないが、気まずい空気に音を上げたモモはそろりと椅子を立つ。
ガシ…。
「……?」
立ち上がりかけたところで、左手首を掴まれた。
ぱちくりと瞳を瞬かせてローを見ると、彼は先ほど同様、正面に視線を落としたまま、それでいてモモの手だけをしっかり掴んでいた。
なにか用かと尋ねる前に、ローが口を開く。
「……待て。」
いつもの彼とは思えないほど小さな声に、モモは何事かと驚いてしまう。
「どうかしたの?」
「……。」
キョトンとして聞き返すけど、それに対するローの返事はない。
「……?」
わけがわからないモモだったが、とりあえず椅子に座り直す。
それからローが再び口を開くまで、数分の時間を要した。
「…お前に話がある。」
「うん…。」
まあ、用があるから引き止められたのだろうと予想はしていたけど。
こちらを見ようとしないローは、明らかに言いにくそうだ。
いったいなんなのだろう。
(もしかして、悪いことかな…。)
こうも間を空けられると、なんだか不安になってくる。
こういう時、ネガティブな想像しかできないのはモモの悪い癖だ。
「ふぅ…。」
ため息ともとれる息をひとつ吐いたあと、ローはようやくこちらに顔を向けた。
瞬間、逃げ出したくなる。
けれど、向けられた視線の強さに息が止まった。
ギュ…ッ
掴まれた手首がいっそう強く握られた。
痛い…。
でもその痛みは、握られた手首か、それとも向けられた視線の強さのせいなのか、よくわからなかった。