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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第41章 消えた灯りと人魚姫の歌




「ぐ…ッ。クソ、前が見えねェ…。」

使える限りの能力と体術を駆使しながら進むローに、さらなる障害が襲う。

強まる光は視界を奪い、進行方向さえ見失わせる。

重力すらまともに感じられない水中で、視力を奪われることは、そのまま死に繋がる。

いつまでもシャボンの中に酸素が残っているわけではないのだ。

「チ…ッ。」

シャボンから片腕だけ出し、手探りで壁を伝う。

これでもけっこうな距離を移動したのだ、出口はそう遠くないはず…。

しかし、慣れない海中移動に疲弊した身体は酸素を欲しがり、シャボン内の酸素濃度はみるみる低下していく。

しだいに頭がぼんやりし始める。

このままでは出口まで保たない。

(イチかバチか、能力に賭けるしかねェ。)

使えば使うほどに体力を消費するという条件を呪いたくなる。

“ROOM”

それでも力を振り絞り、大きなサークルを張る。

“シャンブルズ”

移動先を出口付近だと願って、無我夢中で飛ぶ。


パン…!

ここで大きな誤算が起きた。

瞬間移動自体は成功したが、移動先で鋭く尖った岩肌にシャボンを掠めてしまう。

ズバリと切り裂かれたシャボンは、破裂音を響かせてあっさりと弾けた。

「……ッ!」

咄嗟に息を止めるが、あっという間にローの身体は水中へと放り出される。

(……ちくしょう。)

みるみるうちに力が抜け、動けなくなってしまう。


考えてみれば、バカみたいだ。

能力者の唯一の弱点である水中へ、自ら飛び込むなんて。

少し前の自分なら、絶対にこんなことはしなかっただろう。

自分を変えたのは、なんだ。
…なんて、考えることすらバカらしい。

そんなの、モモのほかになにがある。

良くも悪くも、彼女が自分を変えた。

そのことが原因で、今自分は窮地に立たされている。

しかし、それを後悔しているか? と聞かれれば、答えはNOだ。

もはやモモがいない世界など、考えられないのだから。


(だが、こんなことなら…気持ちを伝えるべきだった。)

モモが振り向いてくれるのを待つなんて悠長なことを言わず、真っ先に“好き”だと伝えれば良かった。

この広い海の上、絶対の未来などないのだから。

例えば、今こうして海に沈んでいくように…。



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