第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
意識を失ったコハクの身体を、デンの方へと押しやった。
「…連れてけ。」
「ああ…。だけど君は泳げないんだろ、本当に大丈夫かい?」
コハクの身体を受け止めたデンは、心配そうにこちらを見る。
「見くびんじゃねェよ。俺ひとりなら、どうとでもなる。いいから、早く行け。」
鬱陶しそうにシッシと手で追いやる。
早く連れていってくれないと、モモが心配する。
きっと自分のことも心配しているだろうが、早くここを出て、いらない心配だとわからせてやりたい。
心優しい彼女は、誰のことも心配する。
自分が決して特別ではないことを知っているけど、それでもモモを想う気持ちを止められなかった。
「わかった、無事に脱出してくれよ!」
そう言い残すと、デンはコハクを抱えて素早く出口へと向かっていった。
その後を追うように、ローも単身出口へと向かう。
だが、シャボンで覆われた身体は思うように動かない。
足だけでも水中に出してバタつかせれば少しは違うのだろうが、悪魔の能力者はことごとく海に嫌われ、途端に力を奪われてしまう。
「チ…ッ」
面倒くさそうに舌打ちをすると、愛刀 鬼哭をシャボンから突き出し、壁の窪みに引っ掛け、反動で身体を押し出す。
なんとも無様な格好。
こんな姿を誰にも見られなくて良かった。
しかし、刻一刻と輝きを増す陽樹 イブに焦りが募る。
「クソ…、一瞬だけならできるか…?」
ものは試しに、手のひらを広げてみる。
“ROOM”
できるだけ大きなサークルを張るが、思うように力が入らない。
やはり水中では、能力を使うこともままならないらしい。
「ぐ…ッ、“シャンブルズ”!」
それでもなんとか体力をすり減らして瞬間移動をすると、先ほどモモと別れた空間へと移動できた。
「ハァ、ハァ…。」
たったこれくらいの距離移動で息が上がるとは、やはり海は能力者を拒否するらしい。
それでもローは素早く辺りを見渡した。
万が一にも、モモが残っていないか心配してのことだ。
しかし、モモの姿は見当たらない。
現状の危機を察知してか、デンに促されてかはわからないが、先に脱出してくれたらしい。
それがわかっただけでも、ホッと安堵の息を吐いた。
あとは自分さえ、脱出できればいい。