第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「ハァ…。」
頑とした態度でデンの腕を拒否するコハクに、ローはため息を吐く。
これだから、ガキは面倒くさい。
…いや、本当は違う。
本当は、コハクのことを面倒くさいだなんて思っていない。
まだモモとコハク、2人を仲間にして日数こそ経っていないが、2人とも、とっくに自分の内側に入ってきている。
いつの間にか、いて当たり前の存在になっていた。
だからこそ、ローはモモへの想いを自覚できたし、守りたいと思う。
それは、コハクに対しても同じ。
彼はもう、自分にとって“大切なもの”のひとつになっている。
しかし、コハクはベポたち他の仲間と比べてどこか違う。
それがどこかと聞かれるとうまく答えられないが、なぜか「コハクを守らねば」という想いに駆られるのだ。
大切だ、守りたいと思うのに、それをうまく伝えることができない。
いや、そもそもこんな想い、別に伝わらなくていい。
自分がコハクのことをそんなふうに想っていると知られたら、恥ずかしくて死ねる気がする。
だからただ、コハクは黙って言うことをきいてくれればいい。
だが、そんな想いなど虚しく、目の前の生意気なガキは、ギロリとこちらを睨みつける。
コハクはローが知る一般的な子供と違って、意志がとても強い。
だからこそ今までモモを守れてきたのだろうし、強くなれたのだろう。
今まで子供と接する機会など皆無だったローには、こんな時どうやって言うことをきかせるのかわからない。
「…俺の言うことがきけねェのか。」
「きけねーな、ローこそデンの手を借りろよ、泳げないんだろ。」
どうやらコハクは、いっちょ前に自分を心配しているらしい。
まったく、こんなガキに心配されるとは、ナメられたものだ。
ふう…。とひと息吐くと、シャボンの中から水を蹴り、一気にコハクとの距離を詰める。
ド…ッ
素早く繰り出した手刀がコハクの首裏を突いた。
「う…ッ」
脳を揺らす一撃を食らったコハクは、短い呻き声を上げたあと、ふらりと意識を失う。
文句くらい、あとでいくらでも聞く。
だから、今は素直に脱出してもらう。
これは船長命令だ。