第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
美しい歌声だった。
その歌声に心奪われるくらい。
歌に力を感じる。
古来より受け継がれてきた力を。
(この娘、セイレーンか…。)
なんと珍しい。
セイレーンなど、もう滅んでしまったと思っていたが、まだ存在していたのだ。
彼女たちセイレーンは、歌に力を宿し、たくさんの奇跡を起こすことができる。
そうした古来の力を持つのは、なにもセイレーンだけではないが、彼らが“政府”に目を付けられ、その数を激減させたことは記憶に新しい。
彼女もまた、世界の汚いものをたくさん見てきたであろう。
しかし彼女の歌からは、汚れとはまったく別のものが伝わってくる。
“感謝”だ。
驚くことに、彼女は世界に感謝している。
自分に訪れた出会いに、冒険に、そして愛に。
すべてに感謝しながら、日々を大切に生きている。
『ありがとう、この世界にわたしを存在させてくれて、ありがとう…。』
『この広い世界で、ローに出会えた。奇跡みたいな瞬間に、感謝したい。』
いつか出会った人魚姫と同じように、彼女も誰かに恋をしている。
そうだ、あの時自分を突き動かしたのは、この想いだった。
人間は愚かだけど、愛おしい生き物。
目の前の彼女がまさに、その通りではないか。
世界の残酷さを知りつつも、それでも感謝を止めない。
人と関わらねば傷ついたりしないのに、恋することを止めない。
いや、止められないのだ。
でも、彼女はそんな自分を認めている。
なんて愚かなセイレーン。
けれど、なんて愛おしいのだろう。
彼女がそれほどまでに愛する人間が、この世界にはいるのだ。
その人間がいるだけで、彼女の世界は虹色に輝く。
自分もその世界を見てみたい。
セイレーンと人間の、たどり着く未来を見てみたい。
愛しさが胸に溢れる。
ワクワクとときめく。
いいよ、君たちがそこまで言うのなら、眠るのは止めだ。
その代わりに見せておくれ、虹色に輝く世界を…。
それを楽しみにして、自分はこれからも太陽の光で輝き続けるから。
ああ、楽しみができた。
これだから、長生きは止められない。